identity crisis?
退屈はしない
毎日毎日、面倒起こしやがるから
お陰さまで、気が付けば一日が終わる有様で
故郷での単調な日々なんざ、そろそろ霞んでしまうんじゃないかと
ところがそれで話はすまない
それだけならよかったってェのに
最近では己の存在すら霞みそうで
言うまでも無く、悪魔の定義は「ニンゲンの魂の輝きを曇らせることを生きがいとする」モノであることで
糧とするものは、人間の負の感情で
倫理やモラルなんざ、関わる余地も無く、それは本質、いわば性
ならば、今のこのオレの様は、どうだ
することといえばニンゲンの守まがいのことばかり
すくなくとも「護衛獣」として呼び出されたのだから
主としてのニンゲンを「護る」ことならば、十分理にはかなっているが
今のオレと、アイツの間には、「誓約」なんてものはとっくになく
今ここにいるのはオレ自身の意思であるわけで
悪魔個人として、ニンゲンを護っているわけだ
おまけに護衛だけでなく、日頃の世話、そう「お守」なんてことまでしているわけで
まったくもってカイガイシイ
故郷での「魔王」としての立場から一転、今の自分はまさに「使い魔」
暴力と争乱を司るモノとしての性を抑え、どうにも脆そうな己の主人を壊さぬよう、気がつけば気を遣っている自分がいる
まったくもってオカシイ
たった一人のニンゲンのために
己の本質曲げてまで
命までかけて
そうしているのはオレの欲
そうさせるのはあのニンゲン
まったくなんてヤロウだ
そういえば、アイツの保護者共も、存在が曖昧な奴等だ
アイツのために、己の存在捻じ曲げちまったバカな奴等
一族の得た名は、あのイケスカナイ同族が一枚噛んでいたからにしろ
どうしてなかなか、その名も伊達じゃないだろう
結局はあのインチキ悪魔も、アイツに運命狂わされたのだ
「おっそろしーヤツ」
呟いて、自然と口元に笑みが浮かぶ
視線の先にいる件の傍迷惑なご主人殿は、恐ろしいなんてコトバ、とてもじゃないが似合わないので
どうやら大物がかかったらしい釣竿と悪戦苦闘している
まァ見てろ
オレがテメエに振り回されてんのと同じくらい、
オレがテメエのこと引っ掻き回してやらァ
随分因縁のあるらしいメガネやオンナなんかより、
オレなしじゃ存在できないくらいに
「…バルレルッ!!」
笑っていないで助けろといわんばかりに名を呼ばれ、立ち上がる
さて、どうしようか
助けてやるか
いっそ湖に突き落としてやるのもおもしろいかもしれない
基本悪魔は気まぐれなもので
目先の運命はとりあえず己が握っている主人の下へ、物好きな悪魔はそれはそれは楽しそうに近寄っていった。