もうどれくらい時間が経ったのかわからない。
ひどく焦点が合わないような感じなのにどこか冴え冴えとしている。
客観的に、ひどく冷めた目で現状を見つめている自分がいるのに、何一つ判然としそうもなかった。
「放してくれ」
どこも変わらないような空間で、告げられた言葉が、確かに変化が訪れていることを知らせる。
本当に、いっそ何も変わらなければよかったのに。
「いやだね」
打開策など一つも無いのに。
この手を離さないで、一体どうしようというのか。
握り締めている手から、どんどん血の気が失われていく。
……強く握り締めすぎているせいだ。
今まで守り続けてきた存在を、こんなにも容易く傷つけている。
もう誓約はないのだから、たとえ目の前の召還主を殺したとしても、こちらにダメージは一つも無い。
なのに、今の自分は間違いなく、これ以上ないほど打ちのめされている。
「放してくれ」
さっきとまったく同じ言葉が繰り返される。
デジャビュというのはこんなにも短い感覚で繰り返されるものだったか。
それもおかしな話だ……と自嘲的な笑みを口元が自然に形作る。
時間の感覚などとっくに失っているはずだ。
矛盾している。
何もかもが。
何も変えたくは無かった。
何も変わらない、この関係に焦れた。
傷つけたくないはずの存在を壊してしまいたくて、傷つかない筈の自分が一番傷つけられている。
加害者はオレで、被害者はコイツ。
こうさせているのはまぎれもなくコイツで、狂わされたのはオレだ。
このじれったい、重苦しい空間をぶち壊してしまいたい。
まるで時間の止まったような、この密やかな空間がずっと続けばいい。
すべてが矛盾していて、苦しいのに、二人きりだという現実は毒のように、甘い。
いっそ自分のもてる力すべて振り絞って、この空間、そのまま切り取ってしまおうか。
目の前の魂、他の誰も近づけない場所に閉じ込めてしまおうか。
馬鹿馬鹿しい陳腐な考えが、それなりの魅力をもって頭の中を駆け巡った。
自分は何を望んでいるのか。
目の前の魂。
どこまでも真っ直ぐなその目が。
あぁ、その目がまたオレを狂わせるから。
こんな筈じゃなかった。
長大な人生の中の、ほんのささいな暇つぶし。
それがどうだ。
こんな雁字搦めに捕まって、何もかも奪われそうだ。
目の前のコイツは、オレの何も欲しがってやしないのに。
欲せられれば喜んで差し出したのだろうか。
捻くれたオレの、この魂。
ありもしない愚かで幸福な空想が駆け巡る。
空想?
悪魔のこのオレが?
悪魔……ニンゲン?
「ニンゲン……」
呼べば、真っ直ぐな視線がわずかに揺らいだ。
流れ込んでくる感情は「戸惑い・恐怖」だ。
何か満たされた気がした。
好みの感情が流れてきたからじゃねェ、目の前のニンゲンが、オレのことしか頭にねェからだ。
今この場で、このニンゲンがオレ以外の名を呼べば、何をしでかすかわからねェだろうよ。
……いっそ、そうなっちまえばせいせいするかもな。
均衡か、変化か。
どこか遠くで時計の音がしているような気がした。
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バルマグというか、誰か他の人が好きなマグナに、バルレルが横恋慕な話。